普通の人2015年06月15日

1980年代 大野隆司・紙屋清貴らによって刊行されていた月刊版画誌「汎画」がありました。

1985年6月6日発行「汎画・第10号」の奥付付記に「普通の人」と題して一文を載せています。以下、原文のまま記します。

"                普通の人

 月刊版画誌「汎画」第10号発行を祝っていただこうと、小野忠重、関野準一郎両先生方に当誌への御寄稿をお願いいたしました。やはり、なんと図々しいのだとお考えになりますか。
 そして、ことわりの御ハガキをいただきました。当然といえば当然当然なのです。天下の大版画家が、このような一銭にもならない同人誌へ作品を寄せていただけるなど、ほとんど不可能でしょう。
 しかし、それではあまりに御両人は「普通の人」ではないかと思うのです。両先生方は、創作版画運動期には「新版画」や「陸奥駒」という連刊版画誌を発行なさり、その中心的存在でした。また現在では、創作版画研究の第一人者でいらっしいます。版画誌に最も理解のあるはずの版画家なのです。
 「普通の人」であることを責めることはだれにも出来ませんが、それを悲しむことは出来ます。
 古今東西、歴史や文化を作り続けてきたのは、良い意味でも悪い意味でも、いわゆる「普通でない人」たちだったのではないでしょうか。
                                (普通人・記) "

ここには、両先生からの断り状も載っていて、高齢やらすでにかかえた仕事によって依頼の件は引き受けられないとなっています。

「汎画」はこの後、自画・自刻・自摺の版画誌として1990年代の初めまで続き、同人は画家としまたは文芸書の挿絵、装幀などで活躍していくことになります。

普通であるか普通でないかを普通人である私が判断できるはずなどないのですが、挑戦する力は「汎画」から十分に感じることが出来ました。